【番外編】一口馬主について考える(怪人オクトパス・特別コラム)

みなさま、こんばんは。
怪人オクトパスです。
最近推奨馬券の調子が悪く、ご迷惑をおかけしています(お前の予想なんて参考にしてねーよなんて声も聞こえてきます)
先週日曜日のうまうまジェントル氏の予想記事に一口馬主について書かれていました。
その中には私の勤務する会社が提供するサービス、つまりバヌーシーのことも書かれていました。
まあ合っていると言えば合っていますし、私の勤める会社の名誉のために言えば、間違っているところもあります。
そこで、今日は
①一口馬主について考える
②バヌーシーってぶっちゃけどうなの?
の2本立てでお送りしようと思います。
本文に入る前に、
みなさんは次の募集馬をどう呼びますか?
A 1口5万円 400口募集(競走馬出資金)
B 1口1万円 1万口募集(競走馬出資金・維持費出資金等すべて含み追加払いなし)
おそらく、多くの方は
Aを2,000万円募集馬
と言い、
Bを1億円募集wwwwwwww
と言う、いやあざ笑うでしょう。
ええ、そうですよね。
ですが、このコラムをお読みいただき、このご認識だけでも改めていただけるといいと思い、書きました。
可能であればバヌーシーが長続きしてほしい、より良いサービスになってほしいという気持ちがありますが、一口馬主という「金融商品」には全く投資したいという気持ちがありません。
そのうえで、私なりの意見をそれとなく書いていますので、長文ですが最後までお付き合いいただけたら幸いです。

 

 

 
①一口馬主について考える
私の記事をいつも読みに来てくださる方は、競馬偏差値(というものがあれば)60以上の方と認識しています。
愛馬会法人だったり、クラブ法人だったり、そのあたりの説明はすでにお分かりである(お分かりでなくてもウィキなどで調べてくださる)と信じて、省略します。
「一口馬主」は、競走馬の獲得した賞金に対する分配権を有するという金融商品に対する1出資者であり、一般に馬主行為とよばれる次走や騎手の決定、引退の決定、馬主席やトレセンへの入場、馬名の決定行為はできないのです。
ただし、クラブによっては付帯サービスとして馬主席や口取り式への招待やゼッケンのプレゼント、馬名「提案権」(命名権ではない)の付与などを付帯サービスとして提供しているところもあります。
その一口馬主の「唯一」の権利である、獲得した賞金の分配についてみてみたいと思います。
一口馬主であるがゆえに税制上の不利を受けていると、私は感じます。
獲得した賞金は以下のように動きます。
JRA等
↓ →源泉徴収
クラブ法人
↓ →源泉徴収
愛馬会法人
↓ →源泉徴収
会員
なんと、3回も源泉徴収がかけられています。
さらに賞金の数%を営業利益として抜くクラブもあり、出資者の取り分が大きく減ってしまうのが現状。
そのため、20%程度が進上金として関係者に支払われるのを差し引き、最終的に会員に支払われる賞金は元の賞金のおよそ60~70%。
ということは、一口馬主で儲けようと思ったら、当然以下の式を成り立たせる必要があります。
分配額:(獲得賞金+各種手当)×0.6~0.7

経費:競走馬出資金+会費+維持費出資金(育成費・厩舎預託費等)
ここから、経費の計上について言及したいと思います。
私が一般的であると考えている、社台系某クラブを例にとって説明します。
募集総額2,000万円、400口募集の競走馬に出資し、6歳12月まで現役をさせた場合の経費総額
≪経費内訳≫
競走馬出資金:50,000円
会費:1か月3,240円×60か月(2歳1月~6歳12月)=194,400円
維持費出資金:1か月1,000円と仮定×60か月(2歳1月~6歳12月)=60,000円

計:304,400円

 

 

これを400倍すると、およそ1億2000万円の経費がこの1頭に対してかかってくるわけです。
(冒頭の1万口募集を「1億円募集www」とあざ笑っている人は、この馬のことを「1億2千万円募集」と言うんでしょうね)
1億2000万円をペイしようと思うと、賞金の60~70%が分配対象となるので、仮にその中間である65%が出資者に分配されるとして、
12000万円÷0.65≒18500万
の賞金が必要です。(他に出走手当等を計算に入れる必要がありますが)
なんと、単純計算では2000万募集の馬ですら2億円近い賞金を稼いで初めてプラスが生じるということなのです。
しかし、私の計算方法はザルになっているところがあるのも事実。
社台系クラブでは1口もっても複数口もっても月当たりの会費は3,240円。
つまり、3口持っていれば1口当たりの会費は1,080円で、口数を持てば持つほど会費負担は逓減していきます。
では、仮に上の例で10口持っている場合の経費についてみてみましょう。
≪経費内訳≫
競走馬出資金:50,000円
会費:1か月3,240円÷10口×60か月(2歳1月~6歳12月)=19,440円
維持費出資金:1か月1,000円と仮定×60か月(2歳1月~6歳12月)=60,000円

計:129,440円
これを400倍すると、およそ5,200万円の経費がこの1頭に対してかかってきます。
5,200万円のペイには、
5200万円÷0.65=8000万の賞金が必要です。
8000万円のペイであれば、1600万条件を勝ち上がるような馬を持てればトントン
が、これは1口あたりの計算であり、仮に2000万円募集の競走馬を10口持っているのであれば、そのすべてが8000万円を稼ぐ必要があり、未勝利を勝ち上がれないような馬を持ってしまっていたらその分のしわ寄せが他の出資馬に来るわけです。
出資する側としては非常に痛いのが、先述のとおり、①複数回にわたる源泉徴収による賞金額の減少と②会費による支出なのです。
さらに人気クラブともなれば、過去の出資実績により出資の優先順位を決められてしまうケースもあるようで、自分の出資したい馬に意のままに出資できるようになるまで「お布施」をしていかないといけないとも聞きます。
馬主でプラスを計上するのも難しいのに、一口馬主でプラスを計上しようなんていうのはそれよりもはるかに難しいと私は考えます。
うまうまジェントル氏の「会費+餌代に関しては携帯代にも満たないので、大人の遊びと割り切ってやるには、別に問題無いとは思いますけど、それも踏まえた上で儲けてやろうなどと考える人は、頭のネジが外れているんだと思います」という言葉には激しく同意します。
証券会社に勤めている私ですから、一口馬主や馬券でプラスを出し、さらにそのお金で生活しようと考えている人には、別の投資をお勧めしたいと思うくらいです。(特に馬券でプラスを叩いているような素晴らしい方は、馬券に関する自己ルールなどもしっかりしているでしょうし、より胴元の取り分の小さい投資市場で資金を回してほしいと思います)
私には楽しみとして馬主感覚を味わいたいという方を止めることはできませんし、止めるつもりもありません。

 

 

一口馬主ライフを思いっきり楽しんでください。
楽しいと感じることは人それぞれで、自分には理解できない他人の楽しみでも、それに対してどうこう干渉することはあってはならないことだと思います。
どうせ一口馬主は儲からないんでしょ?だから超小口化して1口当たりの価格を安くすれば今までにない客層を呼び込めるんじゃね?というところに目を付けたのが、DMMバヌーシーでした。

 

 

 

 

 

②バヌーシーってぶっちゃけどうなの?
目の付け所は非常によかったバヌーシー。
一口馬主人口は約5万人と言われている中で、新たな客層の開発を試みた。
特に、セレクトセールで億を超える競走馬を数万円で提供していると聞けば魅力を感じる人もいるだろう。
従来のクラブで抽選漏れをして自分の出資したい馬に出資できないなんてことはなくなるという魅力があるのは事実だろう。
だが、その価格設定に問題があった。
まずは誤解を解くところから。
バヌーシーの募集馬は2017年度募集馬と2018年度募集馬で募集方法が異なっている。
2017年度募集馬は一括払方式のみ受け付け。
契約締結前交付書面(以下「約款」という)に記載の通り、出資時に出資金を支払ってしまえば、その後の追加費用はなし。
つまり、競走馬出資金も維持費出資金もすべてコミコミで最初に支払ってしまっているのである。
また、海外遠征などあらゆる可能性を考慮して月々の維持費は高めに設定してあるため、初期費用は印象以上に高く設定されている感が出てしまっている。
しかし、約款では、引退時に未使用の経費は返還される旨が書かれており、事前の運用想定期間は牡馬が6歳12月、牝馬が6歳3月までに設定されており、仮にその運用想定期間終了前に引退することになった場合には、返還金もある。
他クラブは月々の費用を度外視した競走馬出資金に対する回収率でモノを言われるのに対して、バヌーシーはすべてコミコミの一口価格に対して回収率を計算されてしまうのである。
これが競馬偏差値の高い人への印象、聞こえの悪さを生んでいると思う(上述の「1億円募集www」とあざ笑われても仕方がない売り方である)。
2018年度募集馬は一括払方式に加え、月払方式も追加された。
一括払方式は2017年度と同様、追加費用は一切なしだが、月払方式は出資時に競走馬出資金と保険料のみの支払いを行い、運用開始後毎月300円/口(同一馬2口目以降は250円/口)を支払う必要がある。
バヌーシーのホームページで記載の通り、一括払方式の方が月払方式よりトータルの支払い費用は少なくなる、というか月払方式は競走馬にもよるが、トータルで1.5倍程度支払う必要がある点に注意が必要だ。
誤解を解くために言っておくと、キタノコマンドールは2017年度募集馬であり、全て一括払方式による出資であるため、この療養中も出資者には1円も支払いを求めていないのである。
この間の治療費は一括払の資金の中から行われており、今引退するのと復帰(できるかどうかはおいといて)してから引退するのでは、返戻金に差が生じるのは事実であるが。
「感動の共有」に対して、私は共感できるコンセプトであったと思う。
実は今の会社に入る前に、一時期一口馬主になりたいという熱が盛り上がり、バヌーシーに出資を考え、明瑞新山さんに相談したほどである。
上述のとおり一口馬主というのは儲からないと考えていたからである。
儲からないならより少額で馬主気分を味わうことができるほうがいい、というのが貧乏人の私の発想である。
これに対して批判する人もたくさんいるのは事実である。
が、「バヌーシーが絶対儲からない」ことに対する批判に対しては疑問を持たざるを得ない。
その批判の多くが、他のクラブであればほぼ確実に儲かる、というニュアンスをもっているように感じるからである。
前述のとおり、1口だけ出資するとしたら2000万円募集の馬でさえ、引退までに20万円前後の費用が掛かるのである。
この本文中で計算はしなかったが、3歳未勝利を勝ち上がれず、さらに入着賞金も稼げない場合には、およそ13万円がパーとなるのだ(募集総額2000万、400口募集の馬の場合)。
なのに、現存のクラブが儲かるぞ!だからバヌーシーみたいなぼったくりクラブはやめた方がいいぞ!という意見はどこか筋違いな気がする。
出資の時点で一種の損切りができるバヌーシーは、私のような貧乏人かつ一口馬主は儲からないと割り切っている人間にはあっているはずだ。
ここまではバヌーシーを擁護してきたが、実際私は出資するに至っていない。
情報量、というか馬の状態が分かる動画の配信量は他クラブのそれと比較しても類を見ないほど多くあるし、最近は関係者のコメントも素早く聞けるようになってきた。
不満はいっぱいある。

 

 

まずはなぜ会費が馬ごとに違うのか。
さらに会費は、他クラブと異なり口数を持てばもつほど加算される仕組みだ。
口座開設をすると、各馬の近況動画や情報が見られる仕様で、費用が掛からない点はいいところ。
だが出資者にしてみれば、いわば無料の情報を金を出して買っているようなものなので、このあたりの仕様は変更した方がいい。
つまりは出資し損、さらに複数口出資すればするほど損の構図ができあがってしまっているのである。
当初のビジネスモデルの予想だと、一口に出資したい人が10万人単位で存在すると踏んでいたのかもしれず、1万口募集を行っても満口に近いくらい売れると考えていたのかもしれない。
が、初動で多くの物議を醸す行動を見せてしまったことによるイメージが悪化してしまったことも問題だった。
その後は人の目につく行動(有名人による命名やパーティなど)がたびたび批判されるようになってしまった。
動画の内容も競馬玄人の求めるものとは異なり、いわばペットの思い出動画のようなものを配信していてはその価値は薄いのかもしれない。
顧客のターゲットを「競馬初心者」を中心としているからなのか、情報レベルの低さも目に付く。

 

 

馬のローテーションも馬それぞれに適したローテが組まれているとは到底思えない。

 

 

この辺のお客様に対する誠実さがこのサービスには圧倒的に欠けているのだ。
卸売業者の仕入れ単価と末端の消費者の単価が異なるのと同じように、1万口という超小口ファンドが一般の一口馬主より割高になるのはやむを得ないと思うが、であれば、合理的な値段設定をする必要があろう。

 

 

最後に、気づいてほしいことがある。

 

 

競馬初心者が一口馬主というコンテンツに10万人単位で集まることもなければ、数十頭いる募集馬、つまり全部合わせて数十万口を埋めてくれる顧客はこの市場にはいないのだ。
繰り返しになるが、私はこのビジネスの目の付け所は非常にいいものがあると今でも思っている。
自前のパイプを持っているわけではないから、セールなどで割高になった馬を仕入れること自体は仕方ないことだと思う。
1頭につき1万人の出資者を募ることは非常に難しいから、現在軽視されている大口出資者を大切にする必要がある。
今後は、1万分の1で出資できるという強みを活かしつつ、大口出資者に対しては会費の大幅割引や付随サービスの向上により、顧客ごとに差異を設けていく必要があると考える。
そして、長い期間運用して利益を生む事業にしたいのであれば、自社利益が少なくても会費収入を少なくし、正確で包み隠さない情報を提供し続けることで競馬サークルからの信頼を得る必要がある。
そのためには、競馬初心者という新たな顧客層に絞っても事業が上向くことはないということにいち早く気づき、他社以上に競馬玄人にも魅力を感じてもらえるサービスを展開する必要がある。
現状では「お金はあんまり払いたくない、けど馬主気分を味わってみたい」という人にしかこのサービスを進めることができない。
なんとか軌道修正をして有力クラブの1つになってほしいと私は思っている。
バヌーシーのCMなどにより一口馬主の存在が知れ渡ったからなのかなんなのか、他クラブに出資申込が殺到している状況であるから、やり方次第では軌道に乗る可能性がある。
私の熱い気持ちが届いてくれることを願い、このコラムを終わらせようと思います。